作 : カメクジラネコ
ツイッター @kamekujiraneko
商業作家。著書:「クジラたちの海」(評論社)
「クジラを食べたかったネコ」(野鳥社)、他
カメクジラネコさんは友達で、反捕鯨と海の自然や生き物を護ろうと、
絵や物語を通じて訴え続けているアーチストである。彼のアゲンストは数多い。
ストーリはフィクションだが、人間の愚かさや美しい海と生き物たちを
優しい絵と言葉で語っている。
この物語を世界中の人々と子供達にも読んでもらいたい。
ケイコ・オールズ
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ざ ざ ~ ん ・ ・ ・
船べりに波がぶつかってはくだけちります
船の上には 期待に胸をおどらせた10人ばかりの人たちが
身を乗りだすようにして 海のほうに目をこらしています
いったいかれらは 一面の大海原に何を探しているのでしょう?
じつは この人たちはクジラを見にきたのです
クジラというのは、そう、海に住んでいて
大むかしに栄えた恐竜のように大きな動物です
そのクジラを見にきた人たちにまじって
1匹のネコが ガラス玉のような目をかがやかせていました
ネコくんは船のへさきにじんどって
ほかのだれにも負けない熱心さで 海の上をじっと見つめていました
かれも 船に乗っている人たちと同じくクジラを見にきたのですが
それにはちょっとしたワケがありました..
じつをいうと、ネコくんはクジラを食べてみたいと思っていたのです
かれはもともとお魚には目がありません
生の魚、煮た魚、焼いた魚、缶詰の魚、みんな大好きです
おまけにそうとうの食いしんぼうときていますから
魚の中でいちばん大きいと聞いているクジラのお肉を
一度でいいから食べたいなあと夢見ていたのです
もしクジラ1頭分の肉を缶詰にしたら 百コ、千コ、いや、もっとかな?
とにかく食べきれないほどの量になるでしょう
そしたら きっと一年中食べほうだい
ほかのネコたちに分けてあげることだってできます
人間の中には こうしてクジラを見て楽しむ以外に
クジラの肉をおいしい、おいしいといって食べている人もいますが
ネコたちにはぜんぜん食べさせてくれません
それなら いっそのこと じかにクジラのいるところまで行ってやろうと
ネコくんは船に乗りこむことを決心したのです
この船は捕鯨船といって、以前は南氷洋という
遠くて寒い氷の海まで クジラをとりにいっていたということです
当時 そこにはクジラが数えきれないほどわんさかいたそうですが
どういうわけかクジラをとることができなくなってしまい
いまではクジラ見物にいくお客を乗せる船になったのです
海の中にたらしてクジラの歌を聞こうというのです
人びとはまわりに集まってじっと耳をすませました
《ウォ~~ン フルルウルルル・・・ クルル・・ ウォ~~ンン》
心をふるわせる神秘的な歌声がスピーカーから流れでて
船の上の人たちはうっとりと聞きほれました
遠くはるかな別世界の音楽のようです
ネコたちの恋の歌にはかないませんが
それでも こんな美しい歌が歌えるのなら
味のほうもさぞかしおいしかろうと
ネコくんは思い浮かべるだけでよだれが出てしまいました
歌声がかなり大きかったので たぶん近くにいるにちがいないと
船の上にいる全員が身を乗りだすようにクジラを探しはじめました
双眼鏡をのぞいたり、手でひさしを作ったりして
みんないっしょうけんめいです
クジラの潮吹きを見つけようとしているのですが
海の上はかすみがかかっていて
ネコくんにはなかなか潮吹きを見わけることができません
太陽の光がギラギラと照りつけて 鏡のような海の表面に反射し
針のように細くなったネコくんの目にも痛いほどのまぶしさです
塩気をふくんだ風が毛皮をべっとりさせます
ネコくんがしんぼう強く海の上に目をこらしていたときでした
「あ、吹いたぞ!」
ついにさけび声があがりました
指のさす方角を見ると
黒いかたまりが水面にぽっかりとあらわれ
きりのような潮を吹き上げています
クジラは3回潮を吹くと、海の中にもぐってしまいました
船長さんが船のエンジンを止めます
しばらくするとまた浮かび上がってきました
どうやら3頭か4頭が群れを作っているようです
そのうちの1頭が いきなり海からのび上がりました
クジラは全身の半分以上も海の中からとびだして
体をひねるようにかたむけると 水面にたたきつけました
“ ド ド ー ン ”
水柱が高々と上がり、船の上にまで音がとどきます
クジラたちは次々と競いあうように 宙におどりあがりました
見物客は歓声をあげ、こどもみたいにはしゃいでいます
ふたたびエンジンがかかり、追跡がはじまりました
船はほとんど飛びはねるようにしながら 海の上をつき進みました
口をしっかり閉じていないと 大事な舌をかみそうです
こちらの動きに気づいたのか、クジラたちも場所を移りはじめました
ジャンプをしながらどんどん遠ざかっています
そのとき、横合いから大きな波が押しよせ
船べりをこえて ネコくんにおそいかかりました
あっというまもなく ネコくんは波にさらわれて
水の中にジャボンと落っこちてしまいました
さあ、たいへんです
次の瞬間、ネコくんは上も下もわきたつような泡に囲まれていました
ゴーゴーとそうぞうしい音であたりはいっぱいです
耳や鼻からしょっぱい水が入りこんできます
「たすけて、おぼれちゃう!」
声をあげようとしたネコくんは、海水を吸いこんでむせかえりました
4本の足をバタバタさせて ひっしに空気をもとめますが
こわさと息苦しさとで、胸がしめつけられます
ネコくんはしだいに気が遠くなってきました
もがくのをやめると あたりは静まり、青一色になっていきました
ネコくんは 自分もまっ青にそまっていくように感じました..
船はほとんど飛びはねるようにしながら 海の上をつき進みました
口をしっかり閉じていないと 大事な舌をかみそうです
こちらの動きに気づいたのか、クジラたちも場所を移りはじめました
ジャンプをしながらどんどん遠ざかっています
そのとき、横合いから大きな波が押しよせ
船べりをこえて ネコくんにおそいかかりました
あっというまもなく ネコくんは波にさらわれて
水の中にジャボンと落っこちてしまいました
さあ、たいへんです
次の瞬間、ネコくんは上も下もわきたつような泡に囲まれていました
ゴーゴーとそうぞうしい音であたりはいっぱいです
耳や鼻からしょっぱい水が入りこんできます
「たすけて、おぼれちゃう!」
声をあげようとしたネコくんは、海水を吸いこんでむせかえりました
4本の足をバタバタさせて ひっしに空気をもとめますが
こわさと息苦しさとで、胸がしめつけられます
ネコくんはしだいに気が遠くなってきました
もがくのをやめると あたりは静まり、青一色になっていきました
ネコくんは 自分もまっ青にそまっていくように感じました..
ネコくんは青い海の中をただよっていました
ふしぎなことに、さきほどまでの息苦しさはまったくありません
手足を動かそうとしましたが 手足はなく
かわりに魚のようなヒレがついていました
でも、水の中ではこのほうが便利です
ネコくんは自分が生まれたときからずっと
この青い世界になじんでいたような気になりました
4本の足で地面の上を歩いていたなんて まるでウソみたいです
ここは平和ですごしやすい世界でした
太陽は空にかかった円盤ではなく、ユラユラうごめく光の万華鏡です
ネコくんはとても満ち足りた幸せな気分でした
ふいに 頭の上に暗いかげがさしました
上から水音とともに黒いものがとびこんできて
かれのまわりにひろがりました
それは魚をとる網でした
かれの体はその網にからみとられ、身動きがとれなくなりました
もがけばもがくほど 網はまきついて体に食いこみます
ネコくんはそのままズルズルと引き上げられながら
ひっしになってさけびました
「たすけて、おぼれちゃう───」
ふしぎなことに、さきほどまでの息苦しさはまったくありません
手足を動かそうとしましたが 手足はなく
かわりに魚のようなヒレがついていました
でも、水の中ではこのほうが便利です
ネコくんは自分が生まれたときからずっと
この青い世界になじんでいたような気になりました
4本の足で地面の上を歩いていたなんて まるでウソみたいです
ここは平和ですごしやすい世界でした
太陽は空にかかった円盤ではなく、ユラユラうごめく光の万華鏡です
ネコくんはとても満ち足りた幸せな気分でした
ふいに 頭の上に暗いかげがさしました
上から水音とともに黒いものがとびこんできて
かれのまわりにひろがりました
それは魚をとる網でした
かれの体はその網にからみとられ、身動きがとれなくなりました
もがけばもがくほど 網はまきついて体に食いこみます
ネコくんはそのままズルズルと引き上げられながら
ひっしになってさけびました
「たすけて、おぼれちゃう───」
うっすらと目を開くと、太陽が正面でかがやいていました
ネコくんは空気の中にいましたが、どうやらちゃんと息が吸えるようです
心臓もたしかに動いています
かれはまだくらくらする頭を起こして、あたりを見まわしました
どちらを向いても青い海がはてしなくつづいています
ネコくんはやっと 自分がどうしてここにいるのかを思いだしました
そうだ、ぼくはクジラを見にきて、船から落っこちちゃったんだっけ
どこかのはなれ小島にでも流れついたのでしょうか?
それにしてはどうも様子がへんです
かれの下の黒くてなめらかな地面は なんだか上下にゆれているのです
“ ブ シ ュ ー ッ ”
突然、近くにネコくんの体がすっぽり入れそうな2つの穴が開いて
そこから白い水けむりが噴水のように吹き上がりました
生ぐさいにおいがたちこめ、ネコくんの鼻をつきます
ほんのつかのま、空にちっちゃな虹がかかりました
「やあ、お目ざめかい?」
声はネコくんの四方から聞こえてきたようでした
かれはキョロキョロとあたりを見まわしましたが、だれの姿も見えません
「ここだよ、ここ。きみの足の下さ」
ネコくんはおそるおそる海のそばにはいよりました
ネコくんは空気の中にいましたが、どうやらちゃんと息が吸えるようです
心臓もたしかに動いています
かれはまだくらくらする頭を起こして、あたりを見まわしました
どちらを向いても青い海がはてしなくつづいています
ネコくんはやっと 自分がどうしてここにいるのかを思いだしました
そうだ、ぼくはクジラを見にきて、船から落っこちちゃったんだっけ
どこかのはなれ小島にでも流れついたのでしょうか?
それにしてはどうも様子がへんです
かれの下の黒くてなめらかな地面は なんだか上下にゆれているのです
“ ブ シ ュ ー ッ ”
突然、近くにネコくんの体がすっぽり入れそうな2つの穴が開いて
そこから白い水けむりが噴水のように吹き上がりました
生ぐさいにおいがたちこめ、ネコくんの鼻をつきます
ほんのつかのま、空にちっちゃな虹がかかりました
「やあ、お目ざめかい?」
声はネコくんの四方から聞こえてきたようでした
かれはキョロキョロとあたりを見まわしましたが、だれの姿も見えません
「ここだよ、ここ。きみの足の下さ」
ネコくんはおそるおそる海のそばにはいよりました
「わっ!」
大きな目玉が 海の中からこちらを上目づかいに見つめています
そうです、かれはなんとクジラの背中の上に乗っていたのです
船からではどのくらいの大きさか見当がつきませんでしたが
いざこうして上に乗ってみると、なんというとてつもない大きさでしょう
「うひゃあ、これじゃ缶詰千コでも足りないや!」
うっかり口にしてから、ネコくんはしまったと思ってあわてて口をつぐみました
自分のようにちっぽけなネコなど
クジラさんはきっとひとのみにしてしまうにちがいありません
はずかしさをまぎらすために
かれはしょっぱいのもかまわず 背中をせっせとなめました
クジラさんが笑って体をゆすったため、足の下がゆれ動きました
「あのぉ、あなたがぼくをたすけてくれたんですか?」
ネコくんはこわごわとクジラさんにたずねました
「ぼくは何もしちゃいないよ
きみが波間をただよってきたので、ひょいと背中に乗っけたまでさ
残念ながら、いまのぼくにはきみをたすける力はなくてね
きみの運がよかったんだ
たぶん ネコの神さまが守ってくれたんだろう」
そういえば、クジラさんの声にはなんだか元気がないようです
大きな目玉が 海の中からこちらを上目づかいに見つめています
そうです、かれはなんとクジラの背中の上に乗っていたのです
船からではどのくらいの大きさか見当がつきませんでしたが
いざこうして上に乗ってみると、なんというとてつもない大きさでしょう
「うひゃあ、これじゃ缶詰千コでも足りないや!」
うっかり口にしてから、ネコくんはしまったと思ってあわてて口をつぐみました
自分のようにちっぽけなネコなど
クジラさんはきっとひとのみにしてしまうにちがいありません
はずかしさをまぎらすために
かれはしょっぱいのもかまわず 背中をせっせとなめました
クジラさんが笑って体をゆすったため、足の下がゆれ動きました
「あのぉ、あなたがぼくをたすけてくれたんですか?」
ネコくんはこわごわとクジラさんにたずねました
「ぼくは何もしちゃいないよ
きみが波間をただよってきたので、ひょいと背中に乗っけたまでさ
残念ながら、いまのぼくにはきみをたすける力はなくてね
きみの運がよかったんだ
たぶん ネコの神さまが守ってくれたんだろう」
そういえば、クジラさんの声にはなんだか元気がないようです
「どこかぐあいでも悪いんですか?」
「網にからまってしまって動けないんだ」
ネコくんはクジラさんの鼻すじを伝いながら
コブのある頭のいちばん前のほうへ歩いていきました
見ると、たしかにところどころやぶれかけた網が
頭の先から胸ビレにかけて びっしりとからみついています
「なんとかぬけだそうとしたんだがね
よけいがんじがらめになって身動きもできなくなってしまった
ヒレは傷つくし、泳ぐ力もない
こうして波間をただようにまかせて もう10日ほどになる」
「10日も!? その間食べものはどうしたんですか?」
「ぼくらは夏の間にたくさん食べて体の中にたくわえるんでね
いまは食べなくても平気なんだ」
とにかく命をすくってもらったことですし
ネコくんはなんとかしてクジラさんを自由にしてあげたいと思いました
そこで 網をかみちぎろうとして口にくわえて引っぱりました
牙のするどさには自信のあるネコくんでしたが
この網はどうしてもかみ切ることができず
しまいにはとうとう歯ぐきが痛くなってしまいました
「むりだよ、人間が作った網は ぼくらの力じゃどうにもならない」
「網にからまってしまって動けないんだ」
ネコくんはクジラさんの鼻すじを伝いながら
コブのある頭のいちばん前のほうへ歩いていきました
見ると、たしかにところどころやぶれかけた網が
頭の先から胸ビレにかけて びっしりとからみついています
「なんとかぬけだそうとしたんだがね
よけいがんじがらめになって身動きもできなくなってしまった
ヒレは傷つくし、泳ぐ力もない
こうして波間をただようにまかせて もう10日ほどになる」
「10日も!? その間食べものはどうしたんですか?」
「ぼくらは夏の間にたくさん食べて体の中にたくわえるんでね
いまは食べなくても平気なんだ」
とにかく命をすくってもらったことですし
ネコくんはなんとかしてクジラさんを自由にしてあげたいと思いました
そこで 網をかみちぎろうとして口にくわえて引っぱりました
牙のするどさには自信のあるネコくんでしたが
この網はどうしてもかみ切ることができず
しまいにはとうとう歯ぐきが痛くなってしまいました
「むりだよ、人間が作った網は ぼくらの力じゃどうにもならない」
どこまでもうねる波ばかりながめているのにもあきてきたネコくんは
たいくつになってクジラさんにたずねました
「ねえ、クジラさんはいつも海の中でどんなふうに暮らしているんだい?
陸には山や川や森があって、いろんな生きものも住んでいるけど」
「ハハ、ぼくは海から出たことはないから陸のことはよく知らないが
海の中だって陸の上に負けないくらいおもしろいと思うね
たとえば、海には川はないけれど 海流といって
温かい水や冷たい水を運ぶ流れが決まったところを通っている
それから、木の森や林のかわりにサンゴの森や海藻の林がある
そこにはとてもたくさんの生きものが住んでいるよ
スイスイと泳ぐもの、プカプカと浮かぶもの
海の底をノソノソとはうもの、じっとしてぜんぜん動かないもの
ぼくのように大きいのから 目に見えないほど小さいの
美しいかざりやもようのついたもの、毒を持つもの
おおぜい群れて暮らすもの、ひとりでいたがるもの
どうもうなもの、いつも逃げまわっているもの・・・というぐあいにね
それから、海の中はさまざまな音で満ちている
ぼくらクジラは声で仲間どうしの連絡をとりあっているんだ」
なるほど、いったんもぐれば海はおもしろい素顔を見せてくれるようです
でも、ネコくんはさっきみたいなぬれネズミになるのはごめんだと思いました
「ぼくらクジラの仲間は
毎年 季節がくると 北の海と南の海の間を旅するんだ
ちょうど渡り鳥が海の上を大陸から大陸へと渡っていくようにね
夏の北の海には 小さな魚やエビの仲間がたくさん集まってくる
それを食べるために ぼくらははるばる北へ行く
そして 冬がおとずれると
暖かい南の海へ移動して こどもを生み育てるんだ」
クジラさんはむかしを思いだしながら
ひとことひとことかみしめるようにネコくんに話して聞かせました
「たまにははみだしものがいて
決められたコースをはずれてよその海をたずねたりもする
ぼくもこんなふうにならなけりゃ
まだ一度も見たことのない海へ行きたかったんだけど…」
そういってクジラさんは 少し悲しそうな顔をしましたが
気をとりなおして先をつづけました
「ぼくらの一族は岸辺に近いところを泳いでいくんだ
ときどきのび上がって陸の地形を見て覚えておくと
帰り道のときに便利なんでね」
毎年 季節がくると 北の海と南の海の間を旅するんだ
ちょうど渡り鳥が海の上を大陸から大陸へと渡っていくようにね
夏の北の海には 小さな魚やエビの仲間がたくさん集まってくる
それを食べるために ぼくらははるばる北へ行く
そして 冬がおとずれると
暖かい南の海へ移動して こどもを生み育てるんだ」
クジラさんはむかしを思いだしながら
ひとことひとことかみしめるようにネコくんに話して聞かせました
「たまにははみだしものがいて
決められたコースをはずれてよその海をたずねたりもする
ぼくもこんなふうにならなけりゃ
まだ一度も見たことのない海へ行きたかったんだけど…」
そういってクジラさんは 少し悲しそうな顔をしましたが
気をとりなおして先をつづけました
「ぼくらの一族は岸辺に近いところを泳いでいくんだ
ときどきのび上がって陸の地形を見て覚えておくと
帰り道のときに便利なんでね」
「おや、おもしろい生きものがやってきたよ」
ネコくんが海の上に目をやりますと
大きな胸ビレをつばさのようにひろげた魚が
波のいただきからいただきへと次々に飛びだしては消えていきます
「魚が飛んでるっ!」
「あれはトビウオというんだよ」
「へえ、魚のくせに鳥のまねをするのがいるなんて知らなかったなあ」
「まあ、ぼくらだってけもののくせに年中泳いでいるんだから
大きなことはいえないがね」
「ええ~~っ、クジラさんは魚じゃなくてけものの仲間だったんですか!?」
クジラさんのことばにネコくんはびっくりしました
そういえば、さっきから10分おきくらいに吹いている潮は クジラさんの息で
2つの大きな穴は鼻だったのです
てっきりクジラさんのことを 大きな魚だと信じこんでいたネコくんは
またもやはずかしい思いをして 毛皮の中に顔をうずめました
「きみたちの遠いしんせきにあたるぼくらのご先祖は
ずっとずっとむかしに陸をはなれて海の中で暮らすことに決めたんだ
よっぽど魚が好物だったんだねぇ、ハハハ」
意外に近い間柄だと聞いて
ネコくんはもっとクジラさんのことを知りたくなりました
おたがいお魚好きということもありますし..
ネコくんが海の上に目をやりますと
大きな胸ビレをつばさのようにひろげた魚が
波のいただきからいただきへと次々に飛びだしては消えていきます
「魚が飛んでるっ!」
「あれはトビウオというんだよ」
「へえ、魚のくせに鳥のまねをするのがいるなんて知らなかったなあ」
「まあ、ぼくらだってけもののくせに年中泳いでいるんだから
大きなことはいえないがね」
「ええ~~っ、クジラさんは魚じゃなくてけものの仲間だったんですか!?」
クジラさんのことばにネコくんはびっくりしました
そういえば、さっきから10分おきくらいに吹いている潮は クジラさんの息で
2つの大きな穴は鼻だったのです
てっきりクジラさんのことを 大きな魚だと信じこんでいたネコくんは
またもやはずかしい思いをして 毛皮の中に顔をうずめました
「きみたちの遠いしんせきにあたるぼくらのご先祖は
ずっとずっとむかしに陸をはなれて海の中で暮らすことに決めたんだ
よっぽど魚が好物だったんだねぇ、ハハハ」
意外に近い間柄だと聞いて
ネコくんはもっとクジラさんのことを知りたくなりました
おたがいお魚好きということもありますし..
「クジラさんは歌を歌ったり、ジャンプをしたりするクジラの仲間ですか?」
「ああ、そうだよ
“いちばんの歌い手でジャンプの名手”のクジラさ
人間たちはザトウクジラと呼んでいるようだが」
「クジラさんはどうしてそんな重たそうな体で
海の上を飛びはねるんですか?」
ネコくんは クジラさんのジャンプをその目で見たときから
ふしぎに思っていたのです
島ほどもありそうな体を、あんなに高く水中から持ち上げるなんて
よっぽど骨の折れることではないでしょうか?
「音で仲間に合図を送ったりするのにも使うんだけど
まあとにかく、空に向かってぐうんと背のびして
水に体をたたきつけるのは、とっても気持ちがいいもんだよ
仲間の中でだれがいちばん高くジャンプできるか
何回つづけて飛べるか競争するんだ
あの最高の気分は、ちょっときみたちにはわからないかなあ」
あれが遊びだなんて!
ネコくんが虫を追いかけたり
草の葉にじゃれついたりするのとはわけがちがいます
やっぱりクジラさんは何をするのもスケールがでっかいようです
「ああ、そうだよ
“いちばんの歌い手でジャンプの名手”のクジラさ
人間たちはザトウクジラと呼んでいるようだが」
「クジラさんはどうしてそんな重たそうな体で
海の上を飛びはねるんですか?」
ネコくんは クジラさんのジャンプをその目で見たときから
ふしぎに思っていたのです
島ほどもありそうな体を、あんなに高く水中から持ち上げるなんて
よっぽど骨の折れることではないでしょうか?
「音で仲間に合図を送ったりするのにも使うんだけど
まあとにかく、空に向かってぐうんと背のびして
水に体をたたきつけるのは、とっても気持ちがいいもんだよ
仲間の中でだれがいちばん高くジャンプできるか
何回つづけて飛べるか競争するんだ
あの最高の気分は、ちょっときみたちにはわからないかなあ」
あれが遊びだなんて!
ネコくんが虫を追いかけたり
草の葉にじゃれついたりするのとはわけがちがいます
やっぱりクジラさんは何をするのもスケールがでっかいようです
「よくぼくらのジャンプや歌のことを知っていたね」
「さっきクジラさんを見にきた人たちといっしょに
船の上から見物していたんです」
「そうか・・・・」
人間といっしょだったと聞いて、クジラさんの顔がくもりました
声の調子でそれに気づいたネコくんは
いそいでクジラさんの歌をほめあげました
「そうそう、歌も聞きましたよ
とってもすてきな声ですね、ぼく感動しちゃった」
感動したのはほんとうでしたが
ネコくんのおせじにクジラさんはまんざらでもないようです
「ありがとう
ぼくらの歌はどういうときに歌うかによって
いろいろなメロディーがあるんだ
ライバルとのけっとうでの前口上とか
恋するメスにささげるセレナーデ
魚をとりに出かけるときに大漁を祈る歌とかね
戦いや愛の歌の場合は、歌がうまいほうが有利なんだよ」
歌でけんかの勝ち負けや 恋の相手を決めるなんて
クジラさんたちってなかなかユニークだなあ
ネコくんはすっかり感心しました
「さっきクジラさんを見にきた人たちといっしょに
船の上から見物していたんです」
「そうか・・・・」
人間といっしょだったと聞いて、クジラさんの顔がくもりました
声の調子でそれに気づいたネコくんは
いそいでクジラさんの歌をほめあげました
「そうそう、歌も聞きましたよ
とってもすてきな声ですね、ぼく感動しちゃった」
感動したのはほんとうでしたが
ネコくんのおせじにクジラさんはまんざらでもないようです
「ありがとう
ぼくらの歌はどういうときに歌うかによって
いろいろなメロディーがあるんだ
ライバルとのけっとうでの前口上とか
恋するメスにささげるセレナーデ
魚をとりに出かけるときに大漁を祈る歌とかね
戦いや愛の歌の場合は、歌がうまいほうが有利なんだよ」
歌でけんかの勝ち負けや 恋の相手を決めるなんて
クジラさんたちってなかなかユニークだなあ
ネコくんはすっかり感心しました
「漁に出かけるといったけど
クジラさんたちはどうやって魚をとるんですか?」
「網を使うのさ」
「網? 網ってこの網のこと?」
ネコくんはクジラさんの頭にからみついている網をさしました
クジラさんの手はヒレの形になっていて
とてもこんな網を作れるほど器用には見えません
「ぼくらはこんなあぶないものは使わないよ
ぼくらの網は、クジラの神さまからさずかった天然の網さ
まず、魚の群れを見つける
ぼくらがご飯にしているのは、ニシンとかイワシとかの小魚だけどね
そしたら、下にもぐって鼻から息をはき出すんだ
すると、ブクブクと泡がたちのぼって空気でできた網になる
魚の群れの下を 円をえがくように泳ぎながら
その泡の網で魚を囲んじゃうんだ
魚たちが泡におどろいて集まったところを、ガブッとひとのみさ」
へえ、クジラさんはずいぶん便利な道具を持っているなあ
聞いているうちに、ネコくんはだんだんお魚が食べたくなってきました
“ グ ~ ”
「アハハハ、ネコくんは想像力があるねえ」
クジラさんたちはどうやって魚をとるんですか?」
「網を使うのさ」
「網? 網ってこの網のこと?」
ネコくんはクジラさんの頭にからみついている網をさしました
クジラさんの手はヒレの形になっていて
とてもこんな網を作れるほど器用には見えません
「ぼくらはこんなあぶないものは使わないよ
ぼくらの網は、クジラの神さまからさずかった天然の網さ
まず、魚の群れを見つける
ぼくらがご飯にしているのは、ニシンとかイワシとかの小魚だけどね
そしたら、下にもぐって鼻から息をはき出すんだ
すると、ブクブクと泡がたちのぼって空気でできた網になる
魚の群れの下を 円をえがくように泳ぎながら
その泡の網で魚を囲んじゃうんだ
魚たちが泡におどろいて集まったところを、ガブッとひとのみさ」
へえ、クジラさんはずいぶん便利な道具を持っているなあ
聞いているうちに、ネコくんはだんだんお魚が食べたくなってきました
“ グ ~ ”
「アハハハ、ネコくんは想像力があるねえ」
「お話を聞いていたらお腹がペコペコになっちゃった」
船に乗る前にきちんと食べておけばよかったと ネコくんはくやみましたが
いまとなっては後の祭りです
海の上には食べられそうなものもないし
さっきのトビウオでもつかまえておけばよかったのですが
「どれ、ちょっと海の中をのぞいてごらん」
一度落っこちてひどい目にあったので
できれば見たくもなかったのですが
クジラさんがせっかく胸ビレを持ち上げてくれたので
上に乗っかって水面をのぞきました
するとどうでしょう
こんな海のまん中なのに、大小さまざまな魚が
ネコくんの目の前で身をひるがえしていくではありませんか
「魚たちはぼくみたいな大きいのにくっつきたがるんだ
流木なんかにもよく集まっているよ
そのほうが敵から身を守りやすいからね
ぼくたち生きものはけっして食べる、食べられるだけの関係じゃないのさ」
船に乗る前にきちんと食べておけばよかったと ネコくんはくやみましたが
いまとなっては後の祭りです
海の上には食べられそうなものもないし
さっきのトビウオでもつかまえておけばよかったのですが
「どれ、ちょっと海の中をのぞいてごらん」
一度落っこちてひどい目にあったので
できれば見たくもなかったのですが
クジラさんがせっかく胸ビレを持ち上げてくれたので
上に乗っかって水面をのぞきました
するとどうでしょう
こんな海のまん中なのに、大小さまざまな魚が
ネコくんの目の前で身をひるがえしていくではありませんか
「魚たちはぼくみたいな大きいのにくっつきたがるんだ
流木なんかにもよく集まっているよ
そのほうが敵から身を守りやすいからね
ぼくたち生きものはけっして食べる、食べられるだけの関係じゃないのさ」
お魚はもう手の届きそうなところをツイと横切っていきます
ネコくんはのどから手が出るほど魚がほしかったのですが
いかんせん とる方法がありません
「ネコの神さまに聞いてみたまえ」
クジラさんにそういわれて、ネコくんはじっと頭をはたらかせました
しばらくしてから、突然アイディアがパッとひらめきました
「よし、クジラさんが網ならぼくは釣りでいくぞ!」
ネコくんはヒレのふちぎりぎりのところに立って
海のほうへおしりを向けると、しっぽを水面にたらしました
ネコのお母さんがこどもをじゃらすときのやり方で
しっぽの先をピクッピクッと動かし
魚がえさだと思いこむように見せかけます
いままでこんなふうにえものをとったことはありませんでしたが
ものはためしです
まもなく、びんかんなしっぽの先に魚がパクッと食いつく手ごたえがありました
ネコくんがすかさずしっぽをふり上げますと
中くらいのお魚が1匹ぶら下がっていました
きょうのおかずにはこれで十分です
「やったあ!」
「おみごと、ネコくん」
ネコくんはのどから手が出るほど魚がほしかったのですが
いかんせん とる方法がありません
「ネコの神さまに聞いてみたまえ」
クジラさんにそういわれて、ネコくんはじっと頭をはたらかせました
しばらくしてから、突然アイディアがパッとひらめきました
「よし、クジラさんが網ならぼくは釣りでいくぞ!」
ネコくんはヒレのふちぎりぎりのところに立って
海のほうへおしりを向けると、しっぽを水面にたらしました
ネコのお母さんがこどもをじゃらすときのやり方で
しっぽの先をピクッピクッと動かし
魚がえさだと思いこむように見せかけます
いままでこんなふうにえものをとったことはありませんでしたが
ものはためしです
まもなく、びんかんなしっぽの先に魚がパクッと食いつく手ごたえがありました
ネコくんがすかさずしっぽをふり上げますと
中くらいのお魚が1匹ぶら下がっていました
きょうのおかずにはこれで十分です
「やったあ!」
「おみごと、ネコくん」
ものを食べられないクジラさんの上で自分だけごちそうにあずかるのは
ネコくんはなんとなく悪い気がしましたが
クジラさんがえんりょはいらないというので
ありがたくちょうだいすることにしました
「クジラさんはどうしてちっちゃな魚しか食べないんですか?
そんなに大きな口なら
ぼくよりもっとでっかい魚でも食べられそうなのに」
お腹がいっぱいになったネコくんは、またクジラさんに質問しました
「ぼくらの口の中にはえているヒゲはね
ちょうど海水から小魚をこしとって食べるのにつごうよくできているんだ
クジラの神さまがそういうふうに決めたのさ」
ネコくんはときどきマグロやカツオの缶詰を食べます
それなのに、クジラさんはまわりに魚がいっぱい泳いでいても
夏以外の季節は見向きもせず
大きな図体に似合わない小さな魚やエビばかり食べているなんてふしぎです
「・・・ぼくが人間の船にいたといったら
クジラさんはおもしろくなさそうだったけど
やっぱり人間はきらいですか?」
「うーん・・・」
クジラさんはむずかしそうな顔をしてうなってしまいました
ネコくんはなんとなく悪い気がしましたが
クジラさんがえんりょはいらないというので
ありがたくちょうだいすることにしました
「クジラさんはどうしてちっちゃな魚しか食べないんですか?
そんなに大きな口なら
ぼくよりもっとでっかい魚でも食べられそうなのに」
お腹がいっぱいになったネコくんは、またクジラさんに質問しました
「ぼくらの口の中にはえているヒゲはね
ちょうど海水から小魚をこしとって食べるのにつごうよくできているんだ
クジラの神さまがそういうふうに決めたのさ」
ネコくんはときどきマグロやカツオの缶詰を食べます
それなのに、クジラさんはまわりに魚がいっぱい泳いでいても
夏以外の季節は見向きもせず
大きな図体に似合わない小さな魚やエビばかり食べているなんてふしぎです
「・・・ぼくが人間の船にいたといったら
クジラさんはおもしろくなさそうだったけど
やっぱり人間はきらいですか?」
「うーん・・・」
クジラさんはむずかしそうな顔をしてうなってしまいました
クジラさんが網にからまって動けないでいることも
かれが人間をこころよく思わない理由のひとつかもしれません
しかし、なんといっても 人間はクジラの敵でもあるのです
こんなに大きくて 歌ったり飛んだりいろんなことができる
物知りのクジラさんでさえ
人間にはとてもかないません
「でもね、食べられることがいやだというんじゃないよ
ぼくらだって、小さいうちや年をとったり病気になったりすると
サメやシャチにねらわれるからね
シャチというのはぼくらのしんせきで
“どうもうでかしこい海のかりうど”のクジラと呼ばれている
体はぼくらより小さいけど
仲間どうしで協力して狩りをして、えものを分けあうんだ
かれらはおそれられているけれど、尊敬されてもいる
ぼくらをみんなほろぼしてしまうようなことはしないからね」
「ふうん、海の王さまみたいなクジラさんにも苦手な敵がいるんだ」
「ぼくらは別に、ぼくらが食べている魚たちよりちっともえらくはないよ
どれか1種類だけが栄えすぎて、みんなが迷惑することのないように
神さまはとりはからっているからね
たとえば、ぼくらはたしかに敵が少ないけど
そのかわり生まれるこどもの数もとても少ない」
かれが人間をこころよく思わない理由のひとつかもしれません
しかし、なんといっても 人間はクジラの敵でもあるのです
こんなに大きくて 歌ったり飛んだりいろんなことができる
物知りのクジラさんでさえ
人間にはとてもかないません
「でもね、食べられることがいやだというんじゃないよ
ぼくらだって、小さいうちや年をとったり病気になったりすると
サメやシャチにねらわれるからね
シャチというのはぼくらのしんせきで
“どうもうでかしこい海のかりうど”のクジラと呼ばれている
体はぼくらより小さいけど
仲間どうしで協力して狩りをして、えものを分けあうんだ
かれらはおそれられているけれど、尊敬されてもいる
ぼくらをみんなほろぼしてしまうようなことはしないからね」
「ふうん、海の王さまみたいなクジラさんにも苦手な敵がいるんだ」
「ぼくらは別に、ぼくらが食べている魚たちよりちっともえらくはないよ
どれか1種類だけが栄えすぎて、みんなが迷惑することのないように
神さまはとりはからっているからね
たとえば、ぼくらはたしかに敵が少ないけど
そのかわり生まれるこどもの数もとても少ない」
「ぼくらはみんな自分の身にそなわった道具を使って
親に教わったり、生まれつき知っている方法でえものをとる
えものをとるのも、住みかを探すのも、身を守るのも全部自前さ
シャチだって、するどい歯と持ち前のスピードで狩りをする
天からさずかった自分の力をわきまえているんだ
ところが人間は、ぼくらのような大きな動物をかんたんにつかまえられる
この網や船のような道具を使ってね
こういう網は、ちぎれて流されたり、漁師が捨てたりしたものだ
網があんまり細くて見えにくいものだから
ぼくは泳いでいるうちに うっかり頭をつっこんでしまった
ぼくらの網は空気の網ですぐに消えてしまうけど
人間が作った網は どうしたわけか自然の力でくさったりこわれたりしない
おばけみたいにさまよいながら 生きものたちを殺すおそろしいわなになる
ぼくらクジラやイルカの仲間以外にも
多くの魚たち、海鳥やウミガメ、アザラシたちがこのわなにはまってしまう
ぼくぐらいの年ならまだしも、こどもたちのことを思うと胸が痛むよ
しょっちゅう息を吸いに海面に上がるから 網にかかりやすいし
体力がないからすぐに弱ってしまう」
そういったクジラさんの目はとても悲しそうでした..
親に教わったり、生まれつき知っている方法でえものをとる
えものをとるのも、住みかを探すのも、身を守るのも全部自前さ
シャチだって、するどい歯と持ち前のスピードで狩りをする
天からさずかった自分の力をわきまえているんだ
ところが人間は、ぼくらのような大きな動物をかんたんにつかまえられる
この網や船のような道具を使ってね
こういう網は、ちぎれて流されたり、漁師が捨てたりしたものだ
網があんまり細くて見えにくいものだから
ぼくは泳いでいるうちに うっかり頭をつっこんでしまった
ぼくらの網は空気の網ですぐに消えてしまうけど
人間が作った網は どうしたわけか自然の力でくさったりこわれたりしない
おばけみたいにさまよいながら 生きものたちを殺すおそろしいわなになる
ぼくらクジラやイルカの仲間以外にも
多くの魚たち、海鳥やウミガメ、アザラシたちがこのわなにはまってしまう
ぼくぐらいの年ならまだしも、こどもたちのことを思うと胸が痛むよ
しょっちゅう息を吸いに海面に上がるから 網にかかりやすいし
体力がないからすぐに弱ってしまう」
そういったクジラさんの目はとても悲しそうでした..
「どうして人間の道具はぼくらのとちがうんだろう・・?」
「さあ、よくわからないが、自然にはない力を使っているようだ
ずっと南にクジラがたくさん住んでいる氷の海があるんだが──」
「あ、それ 南氷洋っていうんでしょ?」
「そうそう、よく知っているね
ぼくらはそこで長い間平和にすごしてきたんだけど
ある年から突然大きな船がやってきて
えたいの知れない方法でぼくらクジラをさらっていくようになった
やがて、ぼくら“歌い手”の一族やほかの大きなクジラたちは
仲間をおおぜい殺されて ゆたかな氷の海から姿を消していった
いまじゃ“いちばんのチビですばしこいクジラ”が
みんなにかわって海のおつとめをはたすのにてんてこまいさ
というのも、皮肉なことにかれらは体が小さくて肉が少なかったから
大きいクジラがすっかりいなくなるまで見向きもされなかったんだ
チビといったって ぼくよりふたまわりほど小さいだけなんだけどね
でも、そのチビクジラがいま人間にねらわれている
かれらの身にもしものことがあったら クジラの楽園もおしまいだよ
そこにはペンギンやオットセイやほかにもいろんな生きものがいて
海の神さまがそれぞれの役目をわりふっているから
クジラの役がだれもいなくなっちゃうと 神さまもきっと大弱りだろう」
「さあ、よくわからないが、自然にはない力を使っているようだ
ずっと南にクジラがたくさん住んでいる氷の海があるんだが──」
「あ、それ 南氷洋っていうんでしょ?」
「そうそう、よく知っているね
ぼくらはそこで長い間平和にすごしてきたんだけど
ある年から突然大きな船がやってきて
えたいの知れない方法でぼくらクジラをさらっていくようになった
やがて、ぼくら“歌い手”の一族やほかの大きなクジラたちは
仲間をおおぜい殺されて ゆたかな氷の海から姿を消していった
いまじゃ“いちばんのチビですばしこいクジラ”が
みんなにかわって海のおつとめをはたすのにてんてこまいさ
というのも、皮肉なことにかれらは体が小さくて肉が少なかったから
大きいクジラがすっかりいなくなるまで見向きもされなかったんだ
チビといったって ぼくよりふたまわりほど小さいだけなんだけどね
でも、そのチビクジラがいま人間にねらわれている
かれらの身にもしものことがあったら クジラの楽園もおしまいだよ
そこにはペンギンやオットセイやほかにもいろんな生きものがいて
海の神さまがそれぞれの役目をわりふっているから
クジラの役がだれもいなくなっちゃうと 神さまもきっと大弱りだろう」
これでネコくんにも、町でクジラの肉が売られているのを
見かけなくなったわけがわかりました
「人間たちはもちろん
自分でそんな遠くまで泳いでいくことはできないから
石油という“燃える水”で船を動かすらしい
それは大むかしの生きもののしかばねが海の底につもって
気の遠くなるような年月をかけてできたものなんだがね
人間はそれを地面の下からどんどんくみ出している
どんな使い道があるのか知らないけれど
船だけじゃなくて陸の上でもたくさん使っているんだろう
ところが、その石油を運ぶためのタンカーという大きな船が
あちこちの海で事故を起こしてそいつをこぼしている
これがまた迷惑千万なんだ
なにしろ、ぼくらはヒゲがねばついてえさがとれないし
海鳥たちも羽がベタベタになって飛べなくなるし
羽づくろいをすれば、今度は石油をのみこんでお腹をこわして死んでしまう
アザラシやラッコは毛皮がだいなしになってこごえてしまうし
魚たちも息ができなくなって水底におおぜい身を横たえる
魚がいなくなっちゃったら それを食べているたくさんの動物が困るわけだ」
見かけなくなったわけがわかりました
「人間たちはもちろん
自分でそんな遠くまで泳いでいくことはできないから
石油という“燃える水”で船を動かすらしい
それは大むかしの生きもののしかばねが海の底につもって
気の遠くなるような年月をかけてできたものなんだがね
人間はそれを地面の下からどんどんくみ出している
どんな使い道があるのか知らないけれど
船だけじゃなくて陸の上でもたくさん使っているんだろう
ところが、その石油を運ぶためのタンカーという大きな船が
あちこちの海で事故を起こしてそいつをこぼしている
これがまた迷惑千万なんだ
なにしろ、ぼくらはヒゲがねばついてえさがとれないし
海鳥たちも羽がベタベタになって飛べなくなるし
羽づくろいをすれば、今度は石油をのみこんでお腹をこわして死んでしまう
アザラシやラッコは毛皮がだいなしになってこごえてしまうし
魚たちも息ができなくなって水底におおぜい身を横たえる
魚がいなくなっちゃったら それを食べているたくさんの動物が困るわけだ」
「それから河口や岸辺に近づくと、やたらにへんなものが流れてくるね
よく白くてフワフワしたものが海面に浮かんでいるんだが
ウミガメとかがクラゲとまちがえて食べちゃって ひどい目にあっているよ」
それを聞いて、ネコくんはハッと思いあたりました
あれ? それってもしかすると
家の人がスーパーへ買物に行ってもらってくるビニール袋のことかしら・・・
「そもそも海の水自体、人間の流す毒水のせいでおかしくなっている
かれらが作りだす毒は 生きものの体の中にたまりやすい
小さな小さな生きものを それより少し大きな生きものが食べ
それをもっと大きな生きものが食べ・・・とくりかえすうちに
どんどん毒がたまって強くなっていくんだ
だから、ぼくらみたいに魚を食べている大きな動物はいちばん困る
おまけに、そうした毒はなかなか消えずに
こどもやまごたちの体までむしばんでいく
近ごろ わけのわからない病気にかかる仲間が多いのはそのせいかな
ぼくを食べるときはお腹はやめておいたほうが安全だよ、ハハ」
もう、クジラさんたらいじわるなんだから
でも、笑いごとではありません
まじめな顔にもどってクジラさんはいいました
「人間たちはまるで海をゴミ捨て場だとでも考えているみたいだね・・・」
よく白くてフワフワしたものが海面に浮かんでいるんだが
ウミガメとかがクラゲとまちがえて食べちゃって ひどい目にあっているよ」
それを聞いて、ネコくんはハッと思いあたりました
あれ? それってもしかすると
家の人がスーパーへ買物に行ってもらってくるビニール袋のことかしら・・・
「そもそも海の水自体、人間の流す毒水のせいでおかしくなっている
かれらが作りだす毒は 生きものの体の中にたまりやすい
小さな小さな生きものを それより少し大きな生きものが食べ
それをもっと大きな生きものが食べ・・・とくりかえすうちに
どんどん毒がたまって強くなっていくんだ
だから、ぼくらみたいに魚を食べている大きな動物はいちばん困る
おまけに、そうした毒はなかなか消えずに
こどもやまごたちの体までむしばんでいく
近ごろ わけのわからない病気にかかる仲間が多いのはそのせいかな
ぼくを食べるときはお腹はやめておいたほうが安全だよ、ハハ」
もう、クジラさんたらいじわるなんだから
でも、笑いごとではありません
まじめな顔にもどってクジラさんはいいました
「人間たちはまるで海をゴミ捨て場だとでも考えているみたいだね・・・」
ネコくんはすっかり考えこんでしまいました
ネコくんにとっての人間とは
暖かくていこごちのよいおうちや
おいしいご飯をくれる便利な存在でした
もちろん、人間にたよらずに生きていくこともできますが
それには苦労してえものを探さなくてはいけないし
いつもお腹いっぱい食べられるともかぎりません
雨風や寒さにたえなくてはならず、楽ちんな暮らしはのぞめません
人間がネコくんとちがうのは
そういう快適な生活を自分たちで手に入れた点です
自然の姿を思いのままに作りかえ、大きな町を作り
いろいろな機械や乗りものを発明しました
たしかに、海の王者でありながら
ちっともいばったりしないクジラさんとはちがって
王さま気どりのところはありますけど
そのかしこい人間たちが、どうして海の生きものたちに対して
そんなひどいことをするのか
ネコくんにはさっぱりわかりません
クジラさんも理由をはかりかねている様子です..
ネコくんにとっての人間とは
暖かくていこごちのよいおうちや
おいしいご飯をくれる便利な存在でした
もちろん、人間にたよらずに生きていくこともできますが
それには苦労してえものを探さなくてはいけないし
いつもお腹いっぱい食べられるともかぎりません
雨風や寒さにたえなくてはならず、楽ちんな暮らしはのぞめません
人間がネコくんとちがうのは
そういう快適な生活を自分たちで手に入れた点です
自然の姿を思いのままに作りかえ、大きな町を作り
いろいろな機械や乗りものを発明しました
たしかに、海の王者でありながら
ちっともいばったりしないクジラさんとはちがって
王さま気どりのところはありますけど
そのかしこい人間たちが、どうして海の生きものたちに対して
そんなひどいことをするのか
ネコくんにはさっぱりわかりません
クジラさんも理由をはかりかねている様子です..
「自分たちだって とりすぎたり海をよごしたりして
魚がいなくなっちゃうと困ると思うんだけどねぇ・・
ぼくらや魚を食べつくしても足りないほど人間は多いのかな?」
なるほど、陸の上では山がけずられ、森や林もきりはらわれて
家やビルがどんどん建ちならんでいきます
人間の数があまりにふえすぎたせいなのでしょうか?
それにしても、陸でも海でも人間のふるまいは少々目にあまるようです
「やっぱりほかの生きもののことにももう少し気を配ってほしいよね
北と南の海を行き来する旅のと中で海岸に目をやると
年ごとに様子が変わっていくのがわかるんだ
干潟も磯浜も埋立てられて、きれいな海はどんどんせばまっていく
岸の近くは魚や小さな生きものが卵やこどもの時期をすごす場所だから
沖の生きものにとってもすごく大事なところなんだ
ぼくらだって子育てに使っていたんだけど
だんだん追いたてられて行くあてがなくなってきた
海と陸とは切っても切れない縁にあるんだよ
そもそも地球でいちばん最初に生命が生まれたのは海なんだ
ぼくらはいったん陸に上がってから また海にもどったので
その大切さがよくわかるんだけどね
人間だって知らないはずはないんだがなぁ・・・」
魚がいなくなっちゃうと困ると思うんだけどねぇ・・
ぼくらや魚を食べつくしても足りないほど人間は多いのかな?」
なるほど、陸の上では山がけずられ、森や林もきりはらわれて
家やビルがどんどん建ちならんでいきます
人間の数があまりにふえすぎたせいなのでしょうか?
それにしても、陸でも海でも人間のふるまいは少々目にあまるようです
「やっぱりほかの生きもののことにももう少し気を配ってほしいよね
北と南の海を行き来する旅のと中で海岸に目をやると
年ごとに様子が変わっていくのがわかるんだ
干潟も磯浜も埋立てられて、きれいな海はどんどんせばまっていく
岸の近くは魚や小さな生きものが卵やこどもの時期をすごす場所だから
沖の生きものにとってもすごく大事なところなんだ
ぼくらだって子育てに使っていたんだけど
だんだん追いたてられて行くあてがなくなってきた
海と陸とは切っても切れない縁にあるんだよ
そもそも地球でいちばん最初に生命が生まれたのは海なんだ
ぼくらはいったん陸に上がってから また海にもどったので
その大切さがよくわかるんだけどね
人間だって知らないはずはないんだがなぁ・・・」
「ときどきぼくらはへんな船にでくわすことがある
それは海の中にずっともぐりっぱなしでいる船でね
気味の悪いスクリューのうなりをひびかせて
うたぐり深そうに通りすぎていくのを何度か見たよ
その船は仲間どうしで殺しあいをしているっていううわさを聞いた
大きさや形が似ているせいで敵とまちがえられたのか
まきぞえに殺されたクジラ仲間もいる
同じような船が 海の底で立往生しちゃうことがあるんだけど
そうすると、船のまわりには死のかげがたちこめて
どんな生きものも近よることができなくなるんだ・・」
ネコくんはテレビで見た戦争の場面を思い起こしました
それはきっと潜水艦という船にちがいありません
たくさんの罪のない生きものたちをまきこむ戦争は
ネコくんにもクジラさんにもさっぱり理解できないことのひとつです
クジラさんなんて、けんかをなるべくさけるために
歌比べですませているというのに
人間ってつくづくおかしな動物だなあ..
それは海の中にずっともぐりっぱなしでいる船でね
気味の悪いスクリューのうなりをひびかせて
うたぐり深そうに通りすぎていくのを何度か見たよ
その船は仲間どうしで殺しあいをしているっていううわさを聞いた
大きさや形が似ているせいで敵とまちがえられたのか
まきぞえに殺されたクジラ仲間もいる
同じような船が 海の底で立往生しちゃうことがあるんだけど
そうすると、船のまわりには死のかげがたちこめて
どんな生きものも近よることができなくなるんだ・・」
ネコくんはテレビで見た戦争の場面を思い起こしました
それはきっと潜水艦という船にちがいありません
たくさんの罪のない生きものたちをまきこむ戦争は
ネコくんにもクジラさんにもさっぱり理解できないことのひとつです
クジラさんなんて、けんかをなるべくさけるために
歌比べですませているというのに
人間ってつくづくおかしな動物だなあ..
クジラさんの声はだいぶ弱まってきたようです
「ああ、もうそろそろお別れになりそうだ
これが運命ならしかたがない、クジラの神さまが決めたことだからね
こんな網にからまって死ぬのはちょっぴりしゃくだけど・・」
ネコくんはそれを聞いて悲しくなってきました
ここでクジラさんが死んだら
ネコくんも海のまん中でおぼれ死んでしまうでしょう
ネコくんの目から大粒の涙があふれだし、ほおヒゲの間をポロポロと伝いました
「おやおや、そんなに泣いたら体から水分がなくなって日干しになってしまうよ」
ネコくんは少し笑顔をとりもどして聞きました
「クジラさんは悲しいときには泣かないの?」
「ぼくらは水の中に住んでいるから涙は出ないね」
「そうか」
「まあ、心配しなさんな
ぼくが岸まで連れていってあげるよ」
そういうと、クジラさんは最後の力をふりしぼって尾ビレをぐんとひとうちしました
ネコくんはふり落とされないようにコブにしっかりしがみつきました
まわりの水がうずをまいて、白い泡をのみこんでいきます
クジラさんはかすかに見える陸地の方角へ体の向きを変えました
「さあ、あとは潮の流れにまかせておけば、波が岸まで運んでくれるよ」
あたりはもうまっ暗で、海と空とのさかいめもわからないほどです
ただ前方にチラチラと見える町の灯りが、行く先をしっかりとしめしていました
「ああ、もうそろそろお別れになりそうだ
これが運命ならしかたがない、クジラの神さまが決めたことだからね
こんな網にからまって死ぬのはちょっぴりしゃくだけど・・」
ネコくんはそれを聞いて悲しくなってきました
ここでクジラさんが死んだら
ネコくんも海のまん中でおぼれ死んでしまうでしょう
ネコくんの目から大粒の涙があふれだし、ほおヒゲの間をポロポロと伝いました
「おやおや、そんなに泣いたら体から水分がなくなって日干しになってしまうよ」
ネコくんは少し笑顔をとりもどして聞きました
「クジラさんは悲しいときには泣かないの?」
「ぼくらは水の中に住んでいるから涙は出ないね」
「そうか」
「まあ、心配しなさんな
ぼくが岸まで連れていってあげるよ」
そういうと、クジラさんは最後の力をふりしぼって尾ビレをぐんとひとうちしました
ネコくんはふり落とされないようにコブにしっかりしがみつきました
まわりの水がうずをまいて、白い泡をのみこんでいきます
クジラさんはかすかに見える陸地の方角へ体の向きを変えました
「さあ、あとは潮の流れにまかせておけば、波が岸まで運んでくれるよ」
あたりはもうまっ暗で、海と空とのさかいめもわからないほどです
ただ前方にチラチラと見える町の灯りが、行く先をしっかりとしめしていました
「ネコくんは陸のけものなんだから
死ぬときもやっぱりおかの上でなきゃおかしいものね」
クジラさんは弱々しい声で笑いました
「クジラさんは陸の上で死んでもいいんですか?」
「ああ、海のそばからはなれるのでなければね
死んだクジラが浜辺に打ち上げられるのはめずらしいことじゃない
むかし、人間がまだ自然にはない力を持たなかったころ
浜で死んだクジラを見つけると、みんなでお祭りをして
人間の神さま、クジラの神さま、海の神さまに
感謝の気持ちをこめて祈ったものだ
そして、ぼくたちのご先祖の肉は
大切な食べものとして村のみんなに配られ
骨や油も人びとのためにいろいろと役に立った..」
クジラさんはそれきりだまりこんでしまいました
あんまり長くクジラさんがおしだまっているので
ネコくんはクジラさんがほんとうに死んでしまったのかと思い
心配になってたずねました
「クジラさ・・ん?」
死ぬときもやっぱりおかの上でなきゃおかしいものね」
クジラさんは弱々しい声で笑いました
「クジラさんは陸の上で死んでもいいんですか?」
「ああ、海のそばからはなれるのでなければね
死んだクジラが浜辺に打ち上げられるのはめずらしいことじゃない
むかし、人間がまだ自然にはない力を持たなかったころ
浜で死んだクジラを見つけると、みんなでお祭りをして
人間の神さま、クジラの神さま、海の神さまに
感謝の気持ちをこめて祈ったものだ
そして、ぼくたちのご先祖の肉は
大切な食べものとして村のみんなに配られ
骨や油も人びとのためにいろいろと役に立った..」
クジラさんはそれきりだまりこんでしまいました
あんまり長くクジラさんがおしだまっているので
ネコくんはクジラさんがほんとうに死んでしまったのかと思い
心配になってたずねました
「クジラさ・・ん?」
すると、クジラさんはおもむろに口を開きました
いままでの疑問がふいに解けて答えが見つかったかのように
「思うに・・・
思うに、いまの人間たちは 天からさずかった
生きものとしての自分たちにふさわしい力や与えられた役目に
満足できなくなって、より多くを求めるようになった
もっと広くて快適な住みか
もっと多くの、いままで口にすることのなかった食べもの
それらをもっと楽にたくさん手に入れる方法・・・
そうやって自分たちのことばかり考えて自然に手を加えていくうちに
自分たちの神さまが ぼくらクジラをはじめ
鳥やけものや魚や虫や草や木や、そのほかさまざまな生きものたち
そして、海や空や山や川や、ぼくらをとりまくすべてのものをつかさどる
ほかの神さまとおたがいに相談しあい、取り決めをして
この美しいけどこわれやすい星のバランスを
うまく保つようにしているってことを 忘れちゃったんじゃないかな?
人間たちが自分のことを信じなくなったものだから
人間の神さまはたぶん、かれらを見はなして
どこかへかくれちゃったのかもしれない・・・」
ネコくんはクジラさんの話にじっと耳をかたむけます
いままでの疑問がふいに解けて答えが見つかったかのように
「思うに・・・
思うに、いまの人間たちは 天からさずかった
生きものとしての自分たちにふさわしい力や与えられた役目に
満足できなくなって、より多くを求めるようになった
もっと広くて快適な住みか
もっと多くの、いままで口にすることのなかった食べもの
それらをもっと楽にたくさん手に入れる方法・・・
そうやって自分たちのことばかり考えて自然に手を加えていくうちに
自分たちの神さまが ぼくらクジラをはじめ
鳥やけものや魚や虫や草や木や、そのほかさまざまな生きものたち
そして、海や空や山や川や、ぼくらをとりまくすべてのものをつかさどる
ほかの神さまとおたがいに相談しあい、取り決めをして
この美しいけどこわれやすい星のバランスを
うまく保つようにしているってことを 忘れちゃったんじゃないかな?
人間たちが自分のことを信じなくなったものだから
人間の神さまはたぶん、かれらを見はなして
どこかへかくれちゃったのかもしれない・・・」
ネコくんはクジラさんの話にじっと耳をかたむけます
「ぼくは自分が食べられてもかまわない
それでほかの生きものが生きていけるんなら
よろこんでこの身をささげよう
どんな生きものだってそうしているんだもの
そこで、きみにひとつおねがいがあるんだ
もし、ぶじに陸にたどりついたなら
ぼくの肉をひとくち食べてくれたまえ
そうすれば、ぼくはむだに死んだんじゃなくて
ぼくのよく知っている友だちを生かすのに
役立ったことになるのだからね
こんなにうれしいことはないよ」
ネコくんはそれを聞いておどろきました
せっかくこうして知り合って なかよしになった友だちを
死んだからといって食べてしまうなんてことが
どうしてできるでしょう?
たしかに前までは クジラの肉を食べてみたいと思っていましたけど
しかし、クジラさんは本気でいっているようでした
それでほかの生きものが生きていけるんなら
よろこんでこの身をささげよう
どんな生きものだってそうしているんだもの
そこで、きみにひとつおねがいがあるんだ
もし、ぶじに陸にたどりついたなら
ぼくの肉をひとくち食べてくれたまえ
そうすれば、ぼくはむだに死んだんじゃなくて
ぼくのよく知っている友だちを生かすのに
役立ったことになるのだからね
こんなにうれしいことはないよ」
ネコくんはそれを聞いておどろきました
せっかくこうして知り合って なかよしになった友だちを
死んだからといって食べてしまうなんてことが
どうしてできるでしょう?
たしかに前までは クジラの肉を食べてみたいと思っていましたけど
しかし、クジラさんは本気でいっているようでした
冷たい夜の潮風に、ネコくんはこごえて毛皮をふくらませました
「つかれたらおやすみ
ぼくが子守歌を歌ってあげよう
クジラの子はたいていひとりっ子だから、みんなあまえんぼうなんだ
お母さんクジラは1年くらいあかちゃんクジラにおちちをのませ
海で生きていくために必要な知恵をいろいろと教える
ぼくたちクジラは大きくなるまでに何年もかかるから、なかなか数がふえない
だから、お母さんクジラはこどもをとても大事に大事に育てるんだ
そして、こどもをねかしつけるときには歌を歌ってあやしたのさ
お母さんほどうまくはないけど、歌はいまでもしっかり覚えている・・・
ウォ~~ン・・キュルルクルゥ~・・・」
ネコくんは体をまるくして横になりました
こうして体をぴったりくっつけていると
クジラさんの心臓が波のように規則正しいリズムで打っているのが聞こえます
そういえば、ネコくんも小さいころお母さんに子守歌を歌ってもらったものでした
クジラさんの心臓の音はネコくんたちに比べてずっとゆったりしていますが
ネコくんはまるでお母さんに抱かれているときのようにくつろいだ気分でした
海の上の星はよごれた空気にじゃまされることなく
赤白黄色の光を競いあっています
鏡のようにないだ海の面に
いくつかの明るい大きな星が自分の姿を映しています
ふたつの波の伴奏で クジラさんの静かな子守歌を聞きながら
ネコくんはいつしか海のように深い眠りに落ちていきました
「つかれたらおやすみ
ぼくが子守歌を歌ってあげよう
クジラの子はたいていひとりっ子だから、みんなあまえんぼうなんだ
お母さんクジラは1年くらいあかちゃんクジラにおちちをのませ
海で生きていくために必要な知恵をいろいろと教える
ぼくたちクジラは大きくなるまでに何年もかかるから、なかなか数がふえない
だから、お母さんクジラはこどもをとても大事に大事に育てるんだ
そして、こどもをねかしつけるときには歌を歌ってあやしたのさ
お母さんほどうまくはないけど、歌はいまでもしっかり覚えている・・・
ウォ~~ン・・キュルルクルゥ~・・・」
ネコくんは体をまるくして横になりました
こうして体をぴったりくっつけていると
クジラさんの心臓が波のように規則正しいリズムで打っているのが聞こえます
そういえば、ネコくんも小さいころお母さんに子守歌を歌ってもらったものでした
クジラさんの心臓の音はネコくんたちに比べてずっとゆったりしていますが
ネコくんはまるでお母さんに抱かれているときのようにくつろいだ気分でした
海の上の星はよごれた空気にじゃまされることなく
赤白黄色の光を競いあっています
鏡のようにないだ海の面に
いくつかの明るい大きな星が自分の姿を映しています
ふたつの波の伴奏で クジラさんの静かな子守歌を聞きながら
ネコくんはいつしか海のように深い眠りに落ちていきました
おやすみ、 やんちゃな子クジラくん きょうは1日どんなことが あった? 頭をつっこんだり ジャンプしたり ウミガメのおじさんを からかったり ひょうきんもののイルカと ふざけっこしたり
生きものたちをながめて うっとりしたり・・・ なつかしいひびき
気ままなおしゃべり 海のはるかな深みから とどろいてくる |
美しいことであふれてる こわい目にもあうけど
呼んでいるよ すばらしいこと きみのもの
|
ズズズ・・・
何かがこすれる音がして、ネコくんは目を覚ましました
かれはあいかわらずクジラさんの黒い背中の上に乗っていましたが
まわりにはどこまでものたうつ波のかわりに
白い砂浜がまっすぐのびていました
空はうっすらと赤みがかり、日の出が近いことをつげています
「クジラさん、陸についたよ
ありがとう、おかげでたすかりました」
しかし、クジラさんは返事をしませんでした
いくらゆすっても(ネコくんの力ではピクリともしませんでしたが)
さけんでも
クジラさんの黒い体は岩のようにじっとしたまま動きません
かれはもうクジラであることをやめていたのです
もう二度と息もしなければ
力強い泳ぎを見せることも、美しい歌を口ずさむこともないのです
温かかった血は冷たくなるばかり
その大きな体を形づくっていた細胞のひとつひとつが
いますべて死にたえようとしていたのでした
ネコくんはだまって砂にまみれた大きななきがらのそばに立ちつくしました
たった1日でもかれがいっしょにすごした友だちの体が
まもなくくちはてて骨となり、もとの姿をとどめなくなってしまうのは
たまらなく悲しくつらいことでした
ネコくんはクジラさんの体をほんの少しかじりとりました
涙と塩水とで苦くしょっぱい味がしました
何かがこすれる音がして、ネコくんは目を覚ましました
かれはあいかわらずクジラさんの黒い背中の上に乗っていましたが
まわりにはどこまでものたうつ波のかわりに
白い砂浜がまっすぐのびていました
空はうっすらと赤みがかり、日の出が近いことをつげています
「クジラさん、陸についたよ
ありがとう、おかげでたすかりました」
しかし、クジラさんは返事をしませんでした
いくらゆすっても(ネコくんの力ではピクリともしませんでしたが)
さけんでも
クジラさんの黒い体は岩のようにじっとしたまま動きません
かれはもうクジラであることをやめていたのです
もう二度と息もしなければ
力強い泳ぎを見せることも、美しい歌を口ずさむこともないのです
温かかった血は冷たくなるばかり
その大きな体を形づくっていた細胞のひとつひとつが
いますべて死にたえようとしていたのでした
ネコくんはだまって砂にまみれた大きななきがらのそばに立ちつくしました
たった1日でもかれがいっしょにすごした友だちの体が
まもなくくちはてて骨となり、もとの姿をとどめなくなってしまうのは
たまらなく悲しくつらいことでした
ネコくんはクジラさんの体をほんの少しかじりとりました
涙と塩水とで苦くしょっぱい味がしました
水平線にひとすじのまぶしいしんじゅ色の光が見えてきました
それは見る間にふくれあがり、夜のやみを追いはらっていきました
空の色が深いぐんじょう色からむらさき、赤、そして昼の見なれた青へと
こくこくと移りかわっていくパノラマがくりひろげられました
そのとき、ネコくんは見たのです
海から大きな大きなクジラが高へまい上がり
それは見る間にふくれあがり、夜のやみを追いはらっていきました
空の色が深いぐんじょう色からむらさき、赤、そして昼の見なれた青へと
こくこくと移りかわっていくパノラマがくりひろげられました
そのとき、ネコくんは見たのです
海から大きな大きなクジラが高へまい上がり
そのままどんどん天高くのぼっていくのを
まきちらされた水が、顔を出したばかりの朝日を浴びて
キラキラと虹色にかがやき、クジラの体を包みました
そのたとえようのない美しさはネコくんの目にやきついて
一生忘れることはないでしょう
あたりがすっかり明るくなったころ、
クジラは空のかなたへ消えていきました
クジラさんの体は たくさんの生きものたちをつちかうために
土にかえり、海にかえっていきます
その一部は ネコくんの体の一部にもなりました
それではいったい、クジラさんのたましいは
どこへ行ったのでしょう?
海よりももっと広くて深い空の向こうの世界へ
旅立っていったのでしょうか?
あるいはもしかしたら、氷の浮かぶはるか南のクジラたちの楽園で
空から仲間たちの幸せそうな姿をながめているのかもしれません
でも、ほんとうのところはネコくんにもわかりません..
空から仲間たちの幸せそうな姿をながめているのかもしれません
でも、ほんとうのところはネコくんにもわかりません..
<おしまい> | |
Dirty Fishing" Emptying Oceans |
鯨類は約5000万年前海から陸に上がり、約3000万年前また海に戻り今の姿に形成した気の遠くなるような進化を遂げ今日まで生きてきたという。人類の歴史は40〜50万年と鯨の足元にも及ばない。
鯨類は何千万年もの間海で生活をして来た先住民であり生きた化石だ。
人間が陸で生活をしているのと同じで、海は海で生活をする生物の場。
そこには人と同じように家族の営み、教育、喜びや悲しみのドラマがあるのだがそれが見えないのは商品や食肉としか考えていないからだ。
幸い数年ごとに動物や自然を人間の手によって壊すべきではないと気付く人々が増えてきた。
野生動物は人間の資源ではなく自然環境をと共に守っていくものだ。
増えすぎたから間引くとか、魚を大量に食べるから漁業に差し支えると言うのはそれは人間のエゴである。
自然は自然の力で保たれていく、増え過ぎれば自然に減る。それは世の中に人間が現れるずっと以前から行われてきた。
鯨が海で魚を食べることは当たり前であり、人間は鯨から海の幸を分けてもらうという形こそが地球に住む生物の形だと思う。
鯨もイルカも人間と同じように長生きもしたい、生涯を全うしたいと思っている。
それはどんな生き物もそうだ。
人間が動物の命を奪い大切に感謝しながら食べようが骨や皮を無駄なく使おうが、それで許されると思うのは人間の自己満足である。どっちにしろ殺される事には変わりない。
殺される生き物は人間に食べて欲しくて生まれてきたわけではない。出来るなら生まれた場所で必死に生きて死にたいと思っているはずだ。
動物の命を糧として生きる人々は反論する際に必ず、"では家畜の命は奪っていいのか?"と聞いてくる。
出来れば殺すことはしたくはない。しかし家畜はどこで生まれるのか?
それは人間が育て増やしている動物なのだから人間が責任を持ちどうするべきかという問題は人間の手中にある。
家畜を殺して食べるのなら、せめて生まれてから死ぬまでの間自由に幸せに育て、死ぬときは恐怖や苦しみを与えない事が人間の家畜への責任である。
では中国韓国の犬や猫食はどうかと言うとこれらの動物は家畜として生まれたわけではない。遠い昔人間と共存するために人の手で作られたペットである。本来なら人を助けながら生きる動物だが現在はほとんど愛玩動物である。だからこれも食べたり増えすぎたから殺すべきではない。人間の作った生き物なのだから人間が保護する責任がある。
しかし野生生物は人間の手中にはない。彼等は自然の中で生きるように生まれてきた。自然の中で共存していない人間にとっては国境の向こうの生き物たちでなのである。
日本の人々は"クジラ肉は食文化である"、"肉食はどこの国にもあり、日本はたまたま鯨も食していたから"と理由にする。
それを妨害しようとする者は、"水銀が多量に含まれる"、"絶滅機種である"などお互いに様々な理由をつけて譲り合うことはない。
アメリカでは太地が漁をする度にニュースで報道される。
学校では環境保護、自然保護、動物保護の教育にザ・コーブを上映し生徒たちが日本は捕鯨国である事を知る。
親達は鯨の神秘的な美しさを子供達に教える。
今世界中の人々があの小さな漁村の太地を注目しているのだ。
誰が、どっちが野蛮だなどと言うことは全く意味がない。
日本はテクノロジーなどでは先進国だが、自然や動物保護への考え方についてはとても遅れをとっている。
動物が下等なもの、人間のために全てが存在するという誤った意識を持っている人々がまだ多い。
アナログからデジタル、ガソリンから電気へと時代が変わる様に、食文化も変わるべきである。
現在は遠い昔の狩猟時代ではないのだから、狩をして生きるのはわずかに残る狩猟民族だけで十分である。
〜ケイコ・オールズ〜